神崎「ファール!!」 神崎の手が大きく横に開く。 海堂の打った打球は、わずか1メートルの差でファールとなった。 紅組のみんなからしてみれば冷や汗ものである。 しかし、小波だけは心境が他のナインとは違っていた。 小波(なんだ・・・ファールかよ。もう1球投げなきゃならないのか・・・。) こんなことを思っていたそのときだった。 河上 「なにやってんの!!バカぁぁぁぁ!!」 突然大きな声がグラウンドに響き渡る・・・。 声の主は河上だ。小波の投球に苛立ちがピークに達してしまったのだろう・・・。 小波を初めとして、部員全員黙り込んでしまった・・・。 神崎が河上の元に注意に走る。河上は何かを言いながらペコペコと謝っているが遠くてよく聞こえない。 しかし、この河上の一言で小波は目覚めることができたのだ・・・。 1人マウンド上でボールを転がし、眺めてみる。 不思議と、小波の周りは静粛に包まれている・・・。 俺は今まで何をしていたのだろう・・・。大好きな野球では負けたくない。 その気持ちはどこにいったのだろう・・・。 それに、こんな形で試合に負けて河上が和田先輩の元に行かなかったとしても、誰も納得しないだろう・・・。 それならば、俺の全力のプレーで和田先輩に諦めさせるのみ・・・。 河上に認めてもらうのみ・・・。 そう思い直したのだった。 これからが、俺の真のプレーボールだ!!! 小波は顔を上げる。 前を見ると、こちらを鋭い目で睨みつけている海堂先輩・・・。 そして、笑顔で微笑みかけてくる神童・・・。 後ろを振り返ると、みんな真剣な眼差しで守ってくれている。 そして、9回表1アウト満塁のピンチ。バッターは海堂先輩・・・。 まさに、復活の小波にとって、最高のこれ以上ないというような場面だ。 小波が大きく振りかぶり、投球モーションに入る。 海堂(目の色が変わった・・・。) 小波は、体全体を使い、体重を乗せ、そのボールは放たれた。 ギュォォォォォォォ海堂(しかしコースはど真ん中!もらったぜ!)グンッ海堂(くっ・・・手元で伸びただとぉ!)ズバァァァァァァン海堂は一歩も動くことができなかった。いや、動けないでいた。神崎「ス・・・ス・・・ストライク・・・。」 この球に神崎も驚きのあまり声がでない。いや、全ての人が声を失った・・・。 神童(いってぇ・・・。でも、痺れる素晴らしいボールだ。いつの間にあいつ・・・。) 続けざまに幾度となく放たれる小波のストレート。 しかし、海堂もさすがのもので、必死にバットにボールを当て続け、粘っている。 キンッまたもやファールだ。必死に粘る海堂。ここまで彼が翻弄されるのも珍しい・・・。小波「はぁ・・・はぁ・・・」 海堂「ふぅ〜・・・」 両者息を整える。そして、神童からサインが出る。 小波は、頷き投球モーションに入る。 キンッ打球は三塁方向へ流し打たれるものの完全に振り遅れのファールだ。両者帽子とヘルメットを振り飛ばすほどの勢いで投げ、そして打っている・・・。 小波は、帽子を拾い上げ、再び深くかぶりなおす。 小波(さすが海堂先輩・・・簡単には終わらないな・・・) そして、一息おいて後ろを向いてナインに向け、言葉を発する。 小波「しまっていこうぜ〜〜!!!」 紅組「おうっ!!!」 そして再び海堂と対決である。 ・ ・ ・ ・ 神崎「ボール!」 さすがに小波にも疲れが見え始め、ボールが続く。2ストライク3ボールとフルカウントになってしまった。 神童からサインがでる。しかし、小波は首を振り、決して頷こうとはしない・・・。 神童(そうか・・・わかった。お前に任せるぜ。) 神童はお手上げのポーズ。これに小波はこの緊張の場面からは想像もできないような笑顔で頷く・・・。 小波(これで・・・これで三振に取れなきゃ終わりだ!!!) 小波の渾身の力を込めた18球目のストレートが放たれる。 小波「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 ギュォォォォォォォォ海堂(これだ・・・これを打つしかない!!!)ボールは神童のミットをめがけ、恐ろしいほどのうなりをあげ向かっていく・・・。 |
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