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第7話【どうでもいいや】


試合が始まって、はやくも1時間30分が経過しようとしていた。
スコアは、白0−0紅。緊迫の投手戦が続く。
回は、早くも8回表を迎えている。なお、この試合では延長はないらしい。
この回の攻撃は、5番の田中からとなっている。
ここまで、全力の投球を続けてきた和田は汗をぬぐっている。
いくら左腕エースと言われていても、強豪の聖都高校打線が相手では疲労も大きい。
しかし、彼のエースとしての意地・・・さらには、河上がかかっているのだから・・・。
和田の負けてたまるか・・・。その意気込みが強豪打線相手に無失点に抑えていた。

キーンッ

会心の当たりが二遊間を抜ける。ノーアウトでのランナーが出塁である。
和田の疲れは誰の目から見ても明らかだった・・・。
しかし、和田の「負けない。」という強い意志が、和田を生き返らせる。

バシィィッ

神崎「ストライークバッターアウトォ!!」
気迫の投球で6番である橘を三球三振にきってとる。まさに最後の力を振り絞っているかのようだ。
その後も、和田の気迫の前に7番佐伯のバットはファーストゴロとなり、ダブルプレーとなってしまう。
白組は、せっかくのチャンスを和田の気迫によって抑え込まれてしまった。

一方の紅組の攻撃は、この回は7・8・9の下位打線からである。
しかし、バックのプレーに助けられ、まだまだスタミナは十分の松井が立ちはだかる。
それに、決して打撃のうまいとは言えない小向・神童・和田では、安打を放つことができなかった。
9回の表・・・。ここで、神崎が選手交代を行った。
河上 「紅組。守備位置の変更をお知らせします。投手の和田くんがセンター。
    センターの小波くんが投手に入ります。」
これには、小波自身も驚いた。なんといったって、まだ自分の中での答えを見つけていないからだ。
この試合に勝てば夢のスタメンに近づく・・・。しかし、それは河上を手放すことを意味する・・・。
打たれることは簡単である。そうすれば河上は和田先輩の元へはいかないであろう・・・。
しかし、それは今まで頑張ってきた紅組のチームメートに非常に申し訳ない・・・。
俺はどうすればいいのだろう・・・。
そう考えていたとき、マウンドにいたはずの和田が小波のいるセンターまで来ていた。
和田「小波・・・。どうした?交代だぞ?」
どうやら、交代を告げられてからも俺は一歩も動かないでいたらしい。
和田「打たれてもいい。1年だしな・・・。思い切って投げて来い。」
そう言われ、俺はマウンドへ向かった・・・。

いつもは大好きなマウンドへ登る。しかし、今日はこのマウンドの上が嫌だった・・・。
俺の投球で全てが決まってしまう。逃げ出したい。やりたくない・・・。これが正直な気持ちだった。
神崎「プレイ!」
神崎から試合開始が告げられる。しかし、小波の気持ちは落ち着くことはない・・・。
神童(先頭は松井先輩か・・・。コースを突いていけば大丈夫だろう。)
神童がサインを出す。しかし、小波は首を振ることも頷くこともなく投球モーションに入る。

ビシュッ

神童(まずいっ!)

カキーンッ

小波の投じたボールは、ど真ん中へと入ってきた。いくら松井といえど、これを見逃すことはない。
打球は、三遊間を勢いよくぬけ、レフト前ヒット。またもやノーアウトのランナーである。
捕手の神童が、マウンド上へ向かって小走りで走っていく。
神童「いつもの投球はどうしたんだよ。あんな棒球投げやがって・・・。」
神童は、いつもの小波の投球を知っているだけあって、今の投球に納得できないでいた。
小波「わーりぃ。緊張しちまって・・・。」
こう答えるのが、今の小波には精一杯だった・・・。
神童「まぁ、次からしまっていこうぜ?この試合に勝って俺達はレギュラーだぜ。」
そう言うと、神童は小波の肩を軽く叩き、戻っていった・・・。
小波(すまん・・・。)
この言葉は、誰も聞き取ることができなかった。
ハエの声よりさらに小さく言ったのだから当たり前ではあるが・・・。

小波(もうどうでもいいや・・・なったようにしかならないさ・・・。)
小波の投球は、まさに気持ちここにあらず状態だった。
9番の村山こそ、剛球の小波にタイミングを絞っていただけに、キャッチャーフライに討ち取った。
しかし、続く1番大場。2番織田と、連続安打を許し、1アウト満塁のピンチを迎えてしまう。
そして、バッターボックスには3番海堂が迎え撃つ・・・。
再び、神童がマウンドへ向かう。
神童「いったいどうした・・・。いつものお前らしくもない。」
しかし、俺は何も答えることができなかった・・・。
神童「俺が海堂先輩の裏をかいてやっから。ここしかないってとこに決めて来い。」
しかし、ここでも答えることができなかった・・・。いや、答えないでいた。
と、ここで遠くの外野からも声が聞こえてくる。
小向「翔!今度こそ守ってやるから思いっきりいけぇ!!」
矢部「死んでもヒットにはしないから安心して投げろ!!」
そして、あの和田先輩の声も聞こえる・・・。
和田「エースを目指すならこの場面なんとしてでも抑えてみやがれ!」
そして、内野からも声が聞こえる・・・。
野原「俺達を信用しろ!」
冬野「どんなことしてでも守ってやる!」
「お前は全力の球を投げ続けろ!」
桜井「海堂といえど恐れることはないぜ!」
こうした、ナインの励ましも、今の小波には素直に受け取ることができなかった・・・。
小波(みんな・・・ごめん・・・。)
小波の投じた投球は、最初の1球同様ど真ん中に入ってしまう。

カキィィィィンッ

海堂の思いっきり振りぬいたボールは絶妙の角度でフェンスに向かっている。
小波は、この打たれたボールに振り向くこともなくその場に立ちすくんでいた・・・・。







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