視線を感じたほうへと目を向けた。 そこには、河上が立っていた。笑顔を見せ、手を振りながらこちらへ向かってくる。 河上「精がでますねぇ♪お疲れ様。」 そういうと、コーラを俺に投げつけてきた。 河上「それ、私のおごりでいいよ。練習頑張ってるみたいだしね。」 そういうと、河上はベンチに腰掛けた。俺も続くかのように腰掛けた。 久々に河上とゆっくりとしゃべることができた。 学校のこと。家のこと。部活のこと。明日の試合のこと・・・。 久しぶりということもあってか、会話ははずみ、一緒にいて非常に楽しかった。 しかし、途中で会話が途切れてしまった。俺には分かっていた。 河上はわざと明るく振舞っているのではないか・・・。 何か悩んでいる・・・。俺は、なんとなくではあったが、そう感じた。 俺は気になってしょうがなかった。そこで、突っ込んで話を聞いてみることにした。 そこで、意を決したように顔を上げた河上から思いもかけない言葉を聴くことになった・・・。 河上 「私ね・・・今日和田先輩に告白されたの。明日の試合に勝ったら真剣に考えてくれって・・・。」 俺は驚きのあまり声も出なかった・・・。まさかそんな悩みだったとは・・・。 でも、このときの俺は、何も言うことができなかった・・・。 しばらくの沈黙の後、急に河上が勢いよく立ち上がった。 河上 「そうだ♪マネージャーとしてしばらくあんたのこと見てたけどさ・・・。変化球投げてみない?」 突然の申し出だ。俺は、変化球はスライダーしか投げれない。 しかも、ほとんど曲がらない・・・。打者としてみれば非常に打ちやすい球である・・・。 スライダー以外にも持ち球が増えれば、投球の幅が広がるし、打者を攻めやすくなる。 俺は喜んで申し出を受けることにした。 河上「よかった♪んじゃーちょっと待ってて?」 そう言い残すと、河上は走って公園の外に出ていった・・・。 河上を待っている間、俺は懸命に考えていた・・・。 河上と和田先輩が付き合う・・・。信じられない・・・と。 ここ数ヶ月河上の目を見てちゃんとしゃべれなかったのはなぜだろう・・・。 昔ならば、ちゃんと話せたし・・・馬鹿みたいなこともしゃべれていたのに・・・。 俺の心に、何か変化が起こったのだろうか・・・。 そんなことを考えていたとき、河上が息も絶え絶えに戻ってきた。 隣には、河上よりも身長がかなり大きく、多分俺よりも大きい人がいた。 その人を見て、俺はかなり驚いた・・・。 河上「紹介するね?今日から毎日あんたをコーチしてくださる・・・」 小波「紹介なんていらねーよ・・・。なぜならば・・・。」 そう。目の前にいるのはソフトバンクホークスに所属する河上 秀人(かわかみ ひでと)さんなのだ。 俺が野球を始めて投手になったのは、この人の存在が大きかった。 アンダースローから放たれる河上2大魔球であるナックルカーブとナックル・・・。 さらにはそれを操る完璧なコントロールに豊富なスタミナ・・・。 俺は、この人を目標に・・・この人を追い越すことを目標に投手をはじめたのである・・・。 小波「秀人さんが・・・なぜここに・・・?」 俺は、そう言うことだけで精一杯だった。 河上「言ってなかったっけ?秀人兄さんは私のお兄さんなんだよ?」 さらに驚きである・・・。本日だけで何回驚いたことだろう・・・。 突然の試合・・・。河上からの予想外の告白。突然目の前に現れた秀人さんに、河上の実の兄貴・・・。 4回も驚いているのである・・・。今日の俺の心臓はかわいそうだ。 秀人「まぁ・・・あんまり時間がないんだ。早く始めようか。」 そういうと、グローブをはめ、キャッチボールを始めた。 俺は心が熱くなった・・・。あの憧れの秀人さんとキャッチボールをしている・・・。 しかも、さらに変化球を教えていただけるのだ。 投手にとって、こんなに嬉しいことはないだろう。 キャッチボールも終えると、ついに変化球練習に取り組んだ・・・。 しかし、予想以上に難しく習得は困難を極めたのであった・・・。 そして、いよいよ迎えた土曜日・・・。俺にはこの試合、新たな野望が増えていた・・・。 |
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