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第2話【聖都高校野球部】


グラウンドへ一歩一歩近づく事に、キーンッという金属音が響き渡る。
俺は、このグラウンドに響き渡る金属音が大好きだ。
なぜなら、この聞いてて素晴らしい金属音・・・。打った瞬間の充実感である。
河上「んじゃマネージャーはこっちだから・・・。また部活でね♪」
そう言い残すと、河上は小走りでマネージャーの部室へと向かって走っていった。
小向「先輩いい音鳴らしてんなぁ・・・。」
小向がつぶやく。小向はどちらかというと打撃は得意なほうではない。
いつも、俺や先輩などのバッティングを見ては研究して、試す・・・。熱心な男だ。
小向「ってかよ・・・先輩が打撃練習してるってことは、俺ら遅刻じゃねーか・・・?」
俺は、ハッとした。小向の言うとおりだ。呑気にバッティング音なんか聞いてる場合じゃない。
俺らは懸命に部室まで走った。体育の授業でも走ったことがないぐらいの速さで走った。

部室のドアを慌てながらも開けると、まだ多くの1年生が練習着に着替えている最中だった。
村山「どうしたんだ?そんなに慌てて・・・。もうダッシュの練習か(笑)?」
「大方、俺と同じだろうよ・・・。」
織田「ってことは・・・先輩が練習してるの見て、遅刻と思って慌ててたってことか。」
俺と小向は、息を切らし、肩で息をしながらも必死に状況整理を始めた。
小向「ってことは〜・・・遅刻じゃないんだね?」
織田「違うよ。あれは、先輩が自主トレしてるだけだよ。」
そう聞くと、俺らは急に急いで慌ててたことが恥ずかしくなった。
もう、ダッシュで身体はぐったりもいいところである。
さっきは、橘も慌てて部室に入ってきたらしく、続けざまに俺らが慌てて入ってきたらしい。
漫画なら、俺の頭の後ろに「チーン」という文字が書かれていることだろう。
聖都高校野球部での遅刻者の罰は非常にきついものがある。
なので、遅刻じゃないと分かった瞬間、俺は本気で安心した。
その後も、ゆっくりと着替えていると数名大慌てで部室へ駆け込んでくる。
それを見ているのは本当に面白かった。だが、少し前には自分がこうだったかと思うと・・・。
着替えていると、突然俺の携帯のバイブが震えだした。
差出人を見ると、「河上奈美」と書かれている。
当然のごとく隣にいる小向が何かを言おうとしているが、俺は小向の口をふさいだ。
メールを確認してみると、こう書かれてあった。


「なにやってるの?もうすぐ先生来ちゃうよ?早く出てきなっ!」


俺はこの突然の情報に驚いた。驚きすぎて手に持っていたソックスを落としたほどだ。
みんなこの情報を知ると、今までのゆっくりモードからハイパーモードへとギアチェンジされた。
まるで、1年早着替え大会でも開催されんがばかりのスピードである。
1年は、全員ほぼ同時に着替え終わり、我先にとばかりに部室を飛び出した。
そして、1年生全員がグラウンドに現れたと同時くらいに野球部顧問の神崎が現れた。
神崎「今日は遅刻者はいないのだな?罰はなしか・・・。つまらん。」
こう言い放つと、簡単なミーティングの後、神崎は体育教官室へと戻っていった。
今日の罰はなんだったのだろう・・・。考えただけで背筋がゾッとする・・・。
今日のメニューは、キャッチボールや遠投やノック。
そして、さらには実践的な打撃を行うようだ。
俺ももちろん投手なので、先輩に向かって投球を行う。
自慢じゃないが、俺の球は充分先輩にも通用する。神崎にも俺に対する評価は高い。
先輩を次から次へと打ちとっていった。気づいた時には、すでに日が暮れかけていた。
打ちとっていったごとに気分がよくなり、もはや誰を打ち取ったのか・・・何球投げたかすら分からなく
なってしまっていた。
その後、神崎のミーティングを聞き、片付けも終わり、俺はすでに帰宅途中であった。
そのとき、暗闇となった俺の背後から忍び寄る怪しい影・・・。
俺は、怖さも多少含みつつも、一気にバッと振り返った。
そこには、河上がいた。俺が突然振り返ったことで河上もびっくりしているようだった。
河上「な〜んだ・・・気づいちゃったのかぁ・・・つまんないの。」
小波「バ〜カ。てか、背後から近づくなよ・・・。普通にビビるだろうよ・・・。」
河上「や〜い。弱虫。チキン。」
こいつとしゃべっているといつもこんな状態である。
気兼ねなくしゃべれるというかなんというか・・・よく分からない。
その後も、普通に何気ない話をしながら河上と共に家に向かっていった。
俺は、いつ河上に言おうか迷っているところがあった。
それは、今日のお礼である。河上からメールで連絡がなければ俺は遅刻していただろう・・・。
しかし、改めてお礼を言うとなると照れくさくもあり、恥ずかしくもあり・・・。
なかなかタイミングが掴めないでいた。
そして、ついに河上の家の前まで着いてしまった。
河上「送ってくれてありがとね?翔の家こっちじゃないよね・・・。わざわざ遠回りしてくれてありがと。
    また明日ね♪」
俺は、まったく気づかなかった。河上としゃべりたいが為にわざわざ遠回りをしていたのだ。
家に入る寸前の河上に向かって俺は叫んだ。
小波「きょ・・・今日ありがとな!!お前のお陰で助かったよ!!!」
河上は、笑顔で応えてくれた。このとき俺は、なんでもっと早く言わなかったのか後悔した。


このときの俺は、自分の正直な気持ちにまったく気づくことができないでいた・・・。




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