神崎「和田!お前だ!!」 そう言うと、和田へユニフォームを神崎自ら差し出した。 部員全員からも拍手が送られる。いや・・・全員ではない。小波だけは呆然としている。 小波には、何がなんだかもはや分からなくなっていた。 神崎「背番号10は小波!!」 背番号1をもらえると思っていただけに、2桁番号になってしまったことは正直つらい。 だが、ここで文句を言ってもしょうがないだろう・・・。 なぜならば、ユニフォームをもらえるだけでもありがたいと思わなければならないからだ。 ユニフォームすらもらえなかった選手は20人を超える。 この人たちのためにも、文句を言ってはならないような気がしたのだ。 その後、ユニフォームを配布されたもののみ、ミーティングを行った。 ユニフォームを配布されなかったもの・・・。特に3年生は、皆涙を流しながら教室を出て行った。 ミーティングが終わった後、岐路についたが、足取りは重かった。 期待を完全に裏切られたような心地がしたときほどショックが大きいというのは皆同じであろう。 そんなとき、後ろから河上がツンツン突っついてきた。 振り返ると、ほっぺたをムニっと刺されてしまった・・・。どんだけ子供なやつなんだ・・・。 河上「や〜い。ひっかかったひっかかったぁ♪」 いつもなら、「このやろー」とか言ってじゃれあう場面だろう・・・。 だが、とてもそんな気持ちではなかった。しゃべることもなく、スタスタと道を歩き始めた。 河上「ちょ・・・ちょっと〜!待ちなさいよ。」 河上もトコトコついてくる。しかし、会話も何もないまま時間だけがどんどん過ぎていく・・・。 と、小波の家が近づいてきた時に河上が小さな声で話し始めた。 河上「背番号1じゃなくてもいいじゃない・・・。まだ1年生なんだし、試合にだって出られるじゃん。」 そんなことは分かっている。と、心の中で返事を返すが、口には出せなかった。 河上「背番号なんて、自分じゃ見えないんだから。それに背番号だけが全てじゃないでしょ?じゃねっ♪」 そう言うと、河上はダッと走り去っていった・・・。 河上が去り、一人残された暗闇の中で先ほどの言葉を思い出していた。 背番号なんて自分じゃ見えない。全てではない。 確かにそうである。だが、このときは変な意地があり、素直に受け止めることができなかった。 家に着き、バッグを適当に放り投げてソファーに寝ながらテレビを見る。 これが今の俺にとって至福のひと時だ。 テレビのチャンネルを回していると、どうやらスポーツニュースを行っているようだ。 アナウンサー「本日は東東京代表を決める地区大会の第一試合が行われました。」 画面は、青と白のユニフォームのチームの背番号10の選手が大きくガッツポーズを決めていた。 その後も、快投を続けるシーンがあり、その球威は小波にも勝るように見えた。 小波「すげーなぁ・・・。世の中にはこんな投手もいるのか・・・。」 いつの間にかソファーからも降り、テレビに釘付けになっていた。 アナウンサー「暁大付属高校の1年生投手。猪狩守くんは、見事に完全試合を達成しましたね。」 1年生!!この一言に小波はビビっときた。まったく変わらない年齢ではないか・・・。 そんなとき、猪狩守のインタビューが入った。 アナウンサー「見事なピッチングでしたね。」 猪狩「ありがとうございます。」 無愛想な奴だなぁ・・・。と、思いながらも、小波はテレビに釘付けだ。 アナウンサー「見事な完全試合でした。監督へもいいアピールになりましたね。」 猪狩「そうだといいですね。」 アナウンサー「一ノ瀬選手にも劣らない投球で・・・背番号1を奪い取る気持ちですか?」 猪狩「背番号にこだわりはありません。背番号がいくつであろうと、僕の力を最大限出すだけです。」 この言葉が、小波の心にも響いた。 背番号に実力は関係ない。そう言ってるように思えた。 そして、翌日・・・。背番号10のユニフォームを着て、小波はマウンドに立っていた。 |
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